街に漂う金木犀の香りであの頃を思い出した、すれ違った人の香水の香りにあの人を思い出した、特定のニオイをかいだら記憶や思い出が蘇った、という経験をしたことはありませんか? 映像、音、肌触り、味、そしてニオイ。人間の五感を通して得た感覚のうち、人の記憶に一番残りやすいのはニオイだと言われています。それは脳の仕組みにあります。脳には本能や情動をつかさどる「大脳辺縁系」と、思考をつかさどる「大脳新皮質」という部分があります。大脳辺縁系には記憶をつかどる「海馬」という器官があり、すべての情報は一旦海馬に短期記憶として保管されます。五感のうち嗅覚以外の視覚、聴覚、触覚、味覚の情報は大脳新皮質を通って海馬に送られますが、嗅覚の情報だけは直接海馬に送られます。海馬と隣り合わせに嗅覚を担当する脳の部位が並んでおり、ニオイの情報を処理する場所と感情をつかさどる場所が非常に近いため、ニオイは記憶を刺激しやすいのです。 人はそれだけニオイに敏感と言えます。とくに日本人は海外とくらべてその傾向が強いようです。日本のトイレ機能が世界的にも特殊な進化を遂げており、脱臭機能を備えたトイレが一般に多く出回っているのもその一端と言えるでしょう。 良い思い出を喚起させてくれる芳しい香りはありがたいですが、悪臭は取り除きたいものです。